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アメリカン・ゴーレム二題

なんとなく手に取った金森修『ゴーレムの生命論』が面白くてつい最後まで読んでしまいました。

ゴーレムの生命論 (平凡社新書)

ゴーレムの生命論 (平凡社新書)

ユダヤ教の伝説としてのゴーレムを中世から20世紀初頭までざっと概観しつつ、ユダヤ文化にはあまり深入りせず著者が「ゴーレム的なるもの」と呼ぶ2つの特性「怪物性」と「亜人間性」を軸に、自動人形・フランケンシュタインホムンクルスドッペルゲンガーなど19世紀のゴシック小説的なモチーフへと話を運び、最後にはロボットやエイリアン、IPS細胞にひそむ「ゴーレム的なるもの」を探っていく。後半の次々ネタをつなげていく手際のよさは見事とと思うものの、やはりこの新書のミソというか一番楽しいところは最初のユダヤの伝説としてのゴーレムのところでしょう。特にプラハに実在した高名なラビ、「プラハのマハラル」ことイェフダ・レーヴ師の挿話が面白かったです。なんでもこの人こそ現在のゴーレム像、人間に使役される存在としてのゴーレムを最初に生み出したらしい。プラハのお土産物屋には素焼きのゴーレムが売ってるとか売ってないとかいう話ですが、こんな所にルーツがあったんですね。
それと著者は現代における「ゴーレム的なるもの」を探る過程で現代の小説に出てくるゴーレムにも触れるのだけど、これが意外と数あって面白い。もちろんSFからはレムの「GOLEM XIV」とベスターの『ゴーレム100』が入っています(本文には入っていないが参考文献にはアヴラム・デイヴィッドスンの「ゴーレム」も)。というか一例としてストーリーが載っているフランスの作家アラン・デルブの『ゴーレムたち』(2004)が妙に面白そう。戦間期プラハユダヤ人の青年がラビから密かにゴーレムの製作法を教わるが、実はナチのスパイだった友人に裏切られてナチのオカルト部門に誘拐され拷問され……で半世紀後にその子孫が祖父の秘密を知り、ネオナチとゴーレム対決を繰り広げるとかいう何かもうこれ最高なんですけど。翻訳超希望。

さてフランス語は読めないのでしかたない、英語のゴーレム小説を取り上げようと思ったけれど何かあったかなと思いレイチェル・スワースキー&ショーン・ウォレス編の00年代のユダヤSF/FTを集めたアンソロジー People of the Book をパラ見したところ、タイトルにgolemと入ったのがあるじゃないですか。ユダヤ系作家の綺羅星マイケル・シェイボンの短編"Golem I Have Known, or, Why My Elder Son's Middle Name Is Napoleon: A Trickster's Memoir"(2008)です。

People of the Book: A Decade of Jewish Science Fiction & Fantasy

People of the Book: A Decade of Jewish Science Fiction & Fantasy

この話、タイトルにmemoirとあるようにシェイボンの回顧録の形をとった短編になっていて、それによるとシェイボンは幼少時代、叔父の家の地下室でゴーレムを見たとか書いているのですよね。ウソと分かっていても、読み進めるうちについつい引きずり込まれてしまう、文章うまいなと思います。
さてこの叔父はシェイボンが地下室でゴーレムを見た直後、キング牧師の暗殺に端を発する黒人暴動で死んでしまいます。叔父の死後にシェイボンが父親にゴーレムの件を話すと、父親は実はうちの家系はかの「プラハのマハラル」の末裔だからそれくらい不思議じゃないと言いだす。この家系をめぐる想像力とたまたま当時読んでいたフィリップ・ホセ・ファーマーの小説からシェイボンの作家としての道のりが始まるというわけ。
その後もシェイボンの人生の節目節目でゴーレムをめぐる問題が浮上するのですが、それは結局20世紀のアメリカに生きるユダヤ人にとってのゴーレムが意味するもの、創造主と被造物(それはすなわち作家と作品の関係でもある)だったり血縁関係であったりアウシュヴィッツの記憶であったりが巧みに作品に織り込まれていてひたすら頭のいい作家であり作品だなと感心させられます。ちなみに「プラハのマハラル」とかゲルショム・ショーレムの論考とか『ゴーレムの生命論』に出てきた用語や文献がそのまま出てくるので予習・復習に最適です。

さてもう一つ、ゴーレムが出てくるといえば最近のファンタジイ寄りのスチームパンクかなと思いましたが、こっち方面にはあまり明るくないのでどうしたものかしらん。エカテリーナ・セディアとかいかにも書いていそうですが(←偏見)。そこでちょい昔ですけれど、アレックス・アーヴィンの短編"The Golems of Detroit"(2005)を取り上げておきたいと思います。

Pictures from an Expedition

Pictures from an Expedition

これは第二次世界大戦時のアメリカが舞台なんですが、デトロイトのフォードの工場で欧州戦線用のゴーレムを量産しているという話。改変歴史というほどじゃないし、そもそもゴーレムが戦況に影響を与えるとも作中で書いてないのだけど、ちょっと頭のおかしいラビが対枢軸国用にゴーレムをせっせと作らせているという不思議なシチュエーション。この話のゴーレムはラビが呪文を施したりという基調はユダヤ伝説に寄りつつも、アメリカの土で作ると北米大陸から出られない、近代的な工場でゴーレムが作られる等かなり独自のアレンジが加えられていて面白い。10ページ足らずのほとんどスケッチ的な作品なのだけど、その後発展して長編 The Narrows となりました。未読だけれど、いつか読んでみたい。

The Narrows

The Narrows