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The Games by Ted Kosmatka

テッド・コスマトカは00年代後半から年間傑作選や各種SF賞に名を連ねるようになった比較的新顔の作家である。元々生物系のラボを転々としていたという経歴の示すとおり、作風はバイオ系のサイエンスを扱ったものが多い。*1そんな著者が2012年に上梓した初の長編 The Games もまた、遺伝子工学を扱ったバイオSFである。

The Games

The Games

トレイラー

要約

21世紀、遺伝子工学の進展は新たなスポーツを生み出した。各国の遺伝子工学の粋を集めて作られた闘獣たちが殺し合う「グラディエーター競技」はオリンピックの正式競技として世界中に熱狂をふりまいていた。
第38回オリンピックの年、過去数度にわたってグラディエーター競技で米国に優勝をもたらした遺伝学者サイラス・ウィリアムズは今年もグラディエーター育成の部門長に任命される。しかし連覇にこだわるオリンピック委員会のバスコフは、てこ入れと称して闘獣のDNAを天才数学者チャンドラーと彼の管理するスーパーコンピュータ・ブラニンに外注する。設計されたDNAから生まれた生物は現存する地球上のどの生物系統にも属さない異形の存在だった。サイラスはその美に魅了される一方、人類すら上回るポテンシャルを持つこの生物に次第に恐れを抱くようになる。既存の生物学的アプローチではその本質に迫れないと悟ったサイラスは未知の生物を専門とする学者――異星生物学者を探す。一方、チャンドラーはあのDNAを生み出したスーパーコンピュータの中に存在する彼の〈息子〉とその世界に耽溺し、正気を失っていく。
遺伝子操作した生物同士を戦わせるというSFでは古くから描かれてきたモチーフを現代的な文脈の中に配置し直すことでスピード感あふれるテクノスリラーに仕立て上げた作品。超生物や超知性に対するSF的な思索面での踏み込みは弱いが、著者の専門のバイオ系の研究の描写には説得力が感じられる。

感想

英米の作家は新人賞みたいなシステムがないだけに最初の本を出すまでにけっこう時間がかかったりして、その分よく練られた作品になっていることが多い。なので第一長編といいながらもつい相応のレベルを期待してしまうのだが、今回は期待が大きすぎたかなと思った。つまらないとはいわないが、よくいって凡作だろう。
ポケモン・ミーツ・ジュラシックパーク」といった感じの本作の設定はいってしまえばありきたりで、遺伝子のデザインをAIが行っているというところがやや新味を感じるが、後半の人類への反抗という展開はやはり想像の範疇を出ない。とはいえバチガルピとかの例を見るにつけても、アメリカの現代のSF作家を目新しさとか革新性とかいう観点で切ってしまうと何も残らない気もするのでそれはひとまず置いておく。コスマトカの場合、単純にSF小説としての魅力が足りないようだ。
たとえば序盤、自分たちが生み出してしまった生物が想像を凌駕していたことに気づいた主人公のサイラスが異星生物学者のヴィドニアを招くあたりまではラボ小説としてすごく魅力的だ。特に遺伝子操作で生まれた生物に異星生物学者をぶつけるなんてアクロバティックでいいアイデアと思う。ところがその後、研究の描写がさっぱりなくなり登場人物たちの家族問題とかささやかなロマンスとかに話が流れてしまい、いよいよ大波乱が訪れるまで終始その調子である。何が悲しいって、ヤバいヤバいといいながら誰も主体的に研究とか調査とか進めないことだ。頼むから研究してから何かいってくれよ、サイラス先生……! 後半もわりとアクションシーンにページが割かれていて、研究者としての主人公は出番が少ない。それから大した謎でもないのに謎めかしてもったいつけるところも困りもの。もともと構成とか言い回しとかカッコつけのきらいのある作家だと短編を読んで感じていたけれど、長編でこれをやられると大変つらい。
全体としては月並みながらもそれなりの話のはずなのに、減点ポイントが無数にあってどんどん読む気が失せてくるタイプである。早くも新作長編 Prophet of Bones執筆したということだが、読むかどうか慎重に検討中である。当ブログで絶賛休止中の企画「00年代海外SF傑作選」の企画書の最後の方にコスマトカの名前が「期待の新人」枠として載っているのだが、これもどうしたものか。
ところで作中でカタストロフの一例として原発が爆発するシーンが描かれているが、この時に登場人物が思い浮かべるのが「チェルノブイリ、スリーマイル、福島」。ああさっそく使われてやがるなと苦々しく思った次第。

*1:現在は米国の有名なゲームメーカー兼配信サービス会社バルブにライターとして勤めている。