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年間傑作選が多すぎる

memo

アンソロジーには旬のようなものがあって、出るときにはやたらとまとめて出るようだ。年間SF傑作選もまたしかり。2000年にはガードナー・ドゾワとデイヴィッド・ハートウェルというベテラン編集者による二大体制だったのが00年代にかけてポツポツと増えていき、2005〜2006年には実に5冊も出ていた。2006年は次の5冊。

The Year's Best Science Fiction Twenty-fourth Annual Collection

The Year's Best Science Fiction Twenty-fourth Annual Collection

Year's Best SF 12

Year's Best SF 12

The Best Science Fiction and Fantasy of the Year vol.1

The Best Science Fiction and Fantasy of the Year vol.1

Jonathan Strahan: Best Short Novels 2006

その後、ストラーンのBest Short Novelsシリーズがなくなり、残る4シリーズの体制が10年代まで続いていたが、2012年でハートウェルのシリーズも休止。しかし今年になって突如新顔が3シリーズ同時に現れ、ちょっとした群雄割拠の様相を呈している。

以下は計6シリーズの個人的な観点に基づく紹介である。

ガードナー・ドゾワ The Year's Best Science Fiction

The Year's Best Science Fiction: Thirty-second Annual Collection

The Year's Best Science Fiction: Thirty-second Annual Collection

今年32年目を迎える最長寿シリーズ。名前通りの傑作選というよりは、その年に活躍した作家を俯瞰するように作品をチョイスしている感がある。その年の短篇を総括する長文エッセイが載っていたり、掲載されなかった作品が選外作リストという形で載っていたりで、リファレンス的には重宝する。準公式短篇ガイドブックとでも言おうか。

そういう性質なのでセレクションにそれほど面白味はなく、1年間短篇SF界隈をウオッチしていればだいたい落ち着くところに落ち着いている。とはいえ御年68歳(1947年生)のドゾワがこんな大部のアンソロジーをこれまで毎年編んできたこと自体が一つの驚異といえなくもない。

ジョナサン・ストラーン The Best Science Fiction and Fantasy of the year

BEST SFF VOL. 9

BEST SFF VOL. 9

人気SFアンソロジスト、ストラーンによる傑作選。旬の作家を山ほど集めて超つよいオリジナルアンソロジーを作ることにかけては当代随一の編者だが、年間傑作選に関してはドゾワとやや似た俯瞰的なチョイスになっている。とはいえドゾワに比べて新しめの作家が多かったり、こんな作家もいたかという発見があったりして新鮮。どれか一つ年間傑作選を選ぶならこれだろう。個人的にはファンタジイは分離してほしいのだけど。

リッチ・ホートン The Year's Best Science Fiction & Fantasy

The Year's Best Science Fiction & Fantasy 2015 (Years Best Science Fiction)

The Year's Best Science Fiction & Fantasy 2015 (Years Best Science Fiction)

ローカスの短篇書評で知られるホートンの傑作選。前者2つに比べると、作品自体に焦点を当てたチョイスになっていて、TOC(目次)を見ていてもこんなのが入っているのかという驚きがある。新しめの作家も容赦なく入っているので、青田買いにも有効だろう。

ただローカスの書評を見ている限り、個人的にはホートンと趣味が合いそうにない。2014年版を見ていたらトム・パードムとか入っていて、「なんで21世紀にパードムとか入れてるんだ? ふざけているのか〜!」みたいな気持ちになった。

ジョー・ヒル&ジョン・ジョゼフ・アダムズ The Best American Science Fiction and Fantasy

The Best American Science Fiction and Fantasy 2015

The Best American Science Fiction and Fantasy 2015

ここからが今年始まった3シリーズ。編者のジョー・ヒルは他でもないあのジョー・ヒルである。有名なBest Americanシリーズの1つとして出るものらしい。なぜ2015年になって突然とも思うが、それより何よりやはりヒルである。何が出てくるかまったく予想がつかない。

まあEditorにヒル、Series Editorにアダムズがクレジットされているところを見ると、ヒルは年ごとに変わるゲスト編集者という扱いなのだろうけれど、とりあえず期待である。

ポーラ・グーラン The Year's Best Science Fiction & Fantasy Novellas

The Year's Best Science Fiction & Fantasy Novellas 2015

The Year's Best Science Fiction & Fantasy Novellas 2015

ノヴェラ(中篇)のみによる傑作選。ノヴェラはどうしてもページを喰うので、通常の傑作選には混ぜずにノヴェラのみで1本編んだのだろう。00年代前半にストラーンが作っていたノヴェラの傑作選の復活版といった感じか。

編者のグーランはダークファンタジイやホラーの傑作選をメインでやっている人で、それはまあいいのだが、TOCを見ると今ひとつ食指がひかれないというか……。いや、読んでないのにあれこれ言うのはよくないな。反省。

デイヴィッド・アフシャリラド The Year's Best Military SF & Space Opera

The Year's Best Military SF and Space Opera (BAEN)

The Year's Best Military SF and Space Opera (BAEN)

ありそうでなかったミリタリーSFとスペオペに特化した年間傑作選*1*2。編者は版元ベイン・ブックスの編集者らしい。

どうせベイン・ブックスの作品ばかり載ってるんでしょう、みたいな偏見を抱いていたのだけど、TOCを見る限りそんなこともない感じ。もちろん題材上の偏りはあるのだけど、一つの試みとして続いてほしいと思う。

それにしても、これらの収録作をあわせると重複を除いても優に100編は越えてしまうわけで、傑作という言葉自体がなんだかゲシュタルト崩壊しそうな感じではある。

追記(2015/6/25)

まだこんなのがあった。

The Year's Top Ten Tales of Science Fiction 7 (English Edition)

The Year's Top Ten Tales of Science Fiction 7 (English Edition)

  • 作者: Nina Allan,Elizabeth Bear,Michael Swanwick,Peter Watts,Ellen Klages,Gareth Powell,Robert Reed,Alastair Reynolds,Tom Crosshill
  • 出版社/メーカー: AudioText
  • 発売日: 2015/06/14
  • メディア: Kindle
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これは元々オーディオブックのために編まれた年間傑作選が電子書籍でも入手できるようになったもので、そのせいか収録作は少なめ。今年はまだ出ていないようだが、同じ編者によるThe Year's Top Short Novelsというノヴェラの傑作選もあるそうだ。

*1:昔ホートンがスペオペの年間傑作選を予定していたのだけど、結局出なかった。

*2:なお、ここでスペースオペラといっているのは「スカイラーク」とか「レンズマン」とかではなく、ハードSFなどのサブテーマを持たない宇宙SF一般を指している。最近はそのような用法の方が一般的で、逆に30〜40年代のSFノリを指すときは"Pulp Adventure"など別の言い方をすると思う。