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2017年ヒューゴー賞エアノミネーション

魔が差して今年のワールドコンのメンバーシップ買っちゃったのだけど、ノミネーション可能な期間に間に合わなかった。せっかくなので小説関連の4部門について、ノミネーションした場合をシミュレートして書いてみる。

Novel

  • Ninefox Gambit by Yoon Ha Lee

Ninefox Gambit (Machineries of Empire Book 1) (English Edition)

Ninefox Gambit (Machineries of Empire Book 1) (English Edition)

長篇部門はユーン・ハー・リーの第1長篇。既に今年のネビュラ賞にもノミネートされているので、ある意味鉄板というか面白みに欠ける選択かもしれないが、前から知ってた作家のSF長篇が出ただけでもう感慨深い。最近は第1長篇はYAとかファンタジィとかそういうのが多いから……。

〈暦〉と呼ばれる儀式やシンボルの体系に支配された世界で、一兵士である主人公が汚名を着せられ、その挽回のために艦隊を率いて難攻不落の要塞の奪還を命じられる。助けとなるのは、数百年前に常勝の天才と謳われながら大虐殺を引き起こし、狂気に囚われたとして封印された将軍の精神体。この信頼できない指南役とともに、主人公は戦いに臨む。

作者の尊敬するO・S・カード作品を思わせる正統派戦争SFと見せかけつつ、はるかにウィアード路線というか、茫洋とした世界を詩的でグロテスクな文章で描いている。書評などみていると、そのいかにもエンタメな筋書きと実際の作品のミスマッチが低評価を招いている気がするが、個人的にはこういう作者の好きなもの――民族数学からTCGまで――のごった煮小説は嫌いになれない。というか、短篇の頃からずっとこういう作風である。作者がアニオタという観点からもう二言三言付け加えたいが、それはまた別の機会に。

古典的なSFということでいえば、エイドリアン・チャイコフスキーのChildren of Timeがベストだと思う。一応US版が2016年なのでノミネート資格はあるのだが、もう去年のクラーク賞取っちゃってるし、今さらという気もするのでナシということで。

Children of Time (English Edition)

Children of Time (English Edition)

Novella

  • “The Iron Tactician” by Alastair Reynolds

The Iron Tactician (English Edition)

The Iron Tactician (English Edition)

ノヴェラ部門、全然思いつかなかったので比較的最近読んだこれで。

人類宇宙を脅かす敵ハスカーに対抗する武器を探して、古代文明の遺した光速航行が可能な船に乗って人類宇宙を飛び出した主人公マーリン。機関の不調で立ち往生し、通りかかった故障ラムスクープ船から星図を失敬しようとしたところ、その船がかつて代替の機関を積んでいたことが分かり、手放したという星系に赴く。しかしそこは何世紀も続く星間戦争の真っ最中だった。

これを書きながら気付いたのだが、"Merlin’s Gun"(2000)のシリーズの一篇だったのね。何というほどのものもないが、もてなしのよいスペオペ

本当はTor.comがせっせと出しているノヴェラとかを挙げた方が通っぽいと思うが、特にピンとくるものがなく。その中では、アメリカ版カバネリという趣のガイ・ヘイリーの"The Emperor’s Railroad"(ポストアポカリプス+ゾンビ+列車+騎士)がちょっと面白かった気がする。

The Emperor's Railroad (The Dreaming Cities)

The Emperor's Railroad (The Dreaming Cities)

Novelette

  • “Flight from Ages” by Derek Künsken

ノヴェレット部門はデレク・カンスケン。全然メジャーではないが、〈アシモフ〉誌の常連の人である。キャラクターの書き方はややベタだが、SFアイデアを中核に据えた世界構築に才能を感じる。本作は作者がレナルズの「銀河北極」とケン・リュウ「波」にインスパイアされて書いたというだけあって、両者を足して2で割った仕上がりになっている。

古代文明の戦場跡を調査していたAI宇宙船が、ふとしたことから古代兵器を作動させてしまう。その一点から時空の崩壊が広がり、宇宙船は何世紀にも渡る逃走の旅に出ることになる。

ノヴェレットという短さに納めるために、大またぎで時間も文明もどんどん飛び越えていくハッタリ的な壮大さが好ましい。元ネタもそうだし、マルセクの「ウェディング・アルバム」なんかも彷彿させる。最後はまあ予定調和だが、それはそれ。

ShortStory

  • “Between Nine and Eleven” by Adam Roberts

Crises and Conflicts: Celebrating the First 10 Years of NewCon Press (English Edition)

Crises and Conflicts: Celebrating the First 10 Years of NewCon Press (English Edition)

  • 作者: Ian Whates,Adam Roberts,Allen Stroud,Christopher Nuttall,Una McCormack,Tade Thompson,Janet Edwards,Mercurio D. Rivera,Tim C. Taylor,Nik Abnett,Gavin Smith,Jo Zebedee,Michael Brookes
  • 出版社/メーカー: NewCon Press
  • 発売日: 2016/07/11
  • メディア: Kindle
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ショートストーリィ部門は英国バカSF……もといハイ・コンセプトなSFの系譜を今に受け継ぐアダム・ロバーツの短篇。ニューコン・プレス10周年記念アンソロジー収録。

異星人トレフォイルと戦闘していた人類の宇宙艦隊。敵を追い詰めたつもりが、ガス惑星に隠されていた敵の秘密兵器によって大打撃を受ける。その兵器は空間内のある〈概念〉を破壊するという恐るべき力を秘めていたのだ……。

タイトルの時点で出落ち感満載だが、こんなネタが21世紀に許されるのか!ということで、昨年一番のインパクトがあったことは否めない。

こうして通して見てみると見事にスペオペばかりで、選者のセンスがばれてしまうな。

3/17 追記

小説関連の賞で、キャンベル新人賞を忘れてた。ここ2年で頭角を現した作家ということで、ここはマルカ・オールダーを挙げておきたい。 第1長篇Infomocracyについては、SFマガジン2017年2月号のNovel&ShortStory Reviewで取り上げているのでそちらをご覧ください。

Infomocracy: A Novel (The Centenal Cycle)

Infomocracy: A Novel (The Centenal Cycle)