ワールドコン75(2日目)
8/10に回ったところの記録。ちなみに、今回企画を選んだ基準は次の通り。
- 非英語圏SF関連
- アニメ・マンガ関連
- 少なくとも名前を知っている作家が一人は登壇している
興味の方向性と、あと共通知識があって理解しやすそうな観点から選んだ。科学系パネルなども選択肢に入れていたが、初日の聞き取れなさでダメだと思ってだいたい全部諦めた。
11:00Signing: Julie Novakova
ジュリー・ノヴァコヴァはチェコのSF作家。英語でも作品を発表しているが、どちらかというと筆者の関心はチェコSFの翻訳者としての彼女にある。Tor.comに掲載されたハヌシュ・セイナーの短篇の英訳 Hexagrammaton はたとえて言うなら神林長平の現実改変フィクションのような、あまり英米SFで感じたことのない読み心地だった。内容についてはSFマガジン2017年8月号のNovel&ShortStoryレビュウで取り上げたので、そちらをご参照あれ。
そんなわけでちょっと会ってみたい気持ちもあり行ってみた。サイン会場はトレードホールの一角にあり、特定の時間帯に5人くらいの作家のサイン会をまとめて行う。このシステムがなかなか残酷で、人気のシリーズを持っているファンタジィ作家などは山ほど来るし、まだ著書がなかったり知名度のそれほど高くない作家はがらんとしており、明暗が分かれる。幸か不幸かノヴァコヴァは暇そうだったので、すぐに順番が来た。
「Tor.comでの翻訳を読んで感銘を受けた。もっとこういうチェコSFを読んでみたい」というようなことを拙い英語で伝えたところ、なんとか伝わったようであった。ちなみに「あなたはもしかして彼の知り合いか?」といわれてユキシゲゼンニ氏のTwitterを見せられた。まあ日本人とチェコSFという組み合わせが珍しいということだろう。
12:00 Superintelligence
パネリスト
超知性について討論するパネル。例の2階の会議室だったため、先手を打って30分前から列に並び無事入ることができた。われわれは賢いので。
司会役のクロスヒルが超知性と汎用人工知能の違いをどう考えるか、経済、特にビットコインのようなデジタル化された経済への影響はどうか、人間の雇用問題にどう作用するか、自分の子どもたちは超知性とどう付き合うかなどの質問を歯切れよく投げかけ、それにパネリストがそれぞれ応じるという形でうまく進行していた。個々のパネリストの発言についてはあまり記憶していないが、あまりSF的な想像力をたくましくせず、常識的な見解が主だったと思う。そういう意味では科学系のパネルだったといえるかも。
14:00 Has “Hard SF” Changed as a Genre?
パネリスト
- Heidi Lyshol
- Kathleen Ann Goonan(作家)
- Andrew Barton(作家)
- Michael Capobianco(元SFWA会長)
コンベンションセンター外の Rauhanasema が会場。築100年近い瀟洒な建物で、3日目のジャパンパーティー会場でもある。
このパネルではハードSFを50年代のクラークを例としたテクノロジーで問題を解決することを主題としたSFと定義して、そこから変化したかどうかを討論した。結論からいうと変化はあった、作家の関心は多様化し、よりスタイルに腐心するようになったということである。一方で『火星の人』のような古典的なSFが登場しメガヒットしているのはどういうことなのか、といった議論が交わされた。
個人的にはグーナンもだいぶスタイリストだし、ハードSF作家という扱いはいささか謎なのだが、面白かった。グーナンは現在ジョージア工科大学のクリエイティブ・ライティングの教授職を務めているそうなので、SFを教える立場のとしての発言なのかもしれない。
15:00 Writing from Home and Writing from Diaspora(参加できず)
ケン・リュウやゼン・チョウ、そして劉慈欣などの国内外で活躍するアジア系SF作家が参加する企画だったが、例によって人数制限で入れず。やれやれ。連続する時間帯の企画は入れない、という認識がこの辺で定着した。
17:00 Science Fiction and Fantasy from and about the East
プレゼンター
- Bao Shu(作家)
この企画はパネルではなく単独の登壇者によるプレゼンテーション。バオ・シュウ(宝树)は中国のSF作家で、『三体』のスピンオフ長篇でデビューした新進の作家。タイトルからは判然としないが、中国SFの中でも改変歴史ないし時間SFに該当する作品の通史を語っていた。英語はそれほど得意ではなさそうだが、なんといってもスライドがあるというだけで大変にありがたい。中国の僧が異星人の力を借りてアメリカに行く話とか(話で聞くぶんには)面白そう。次の企画に出たかったので悪いが中座した。
18:00 European SFF
パネリスト
- Kristina Hard(スウェーデン、作家)
- Barbara G. Tam(イギリス、作家)
- Francesco Verso(イタリア、作家)
- Ju Honisch(ドイツ、作家)
- J Sharpe(オランダ、作家)
昨日の北欧作家パネルに続き、ヨーロッパのSFF作家によるパネル。元々オランダ枠には『魔女の棲む町』のトマス・オルディ・フーヴェルトが来る予定だったが、なぜか不在だったようで同国人のシャーペが登場。
昨日のように作品紹介から入るのかと思いきや、割と出版事情の方に話の焦点が向かう。初版1500部とかいう世知辛い数字が出たり、出版社が読者がどこにいるか理解していないとか。フランチェスコ・ヴェルソなんて書くのが作家の仕事、マーケティングは出版社の仕事だろうとだいぶご立腹だったようす。そこで例によって英語で出すという話になるが、あれだけ英語で話せていても直接英語で書くというのはできる人できない人がいるらしい。では翻訳ではというと、やはり意図が厳密に伝わらない。ドイツ語で書くとユーモアが抜け落ちて堅苦しい文章で訳されるというジョーク(?)も出た。
特に結論が出るわけでもなく、みんな大変だねという話でおしまい。
20:00 Ideas Crossing the World: Japanese Adaptations of Western Fantasy
パネリスト
- Jonathan Clements(翻訳者・編集者)
- Django Wexler(作家)
- Ada Palmer(作家)
この日最後の企画は西洋的なファンタジィのイメージを日本のアニメやマンガがどう表象したかというパネル企画。筆者がひときわ注目していたのはファンタジイ作家で重度のアニオタのジャンゴ・ウェクスラーである。ツイッターにも書いたがSF Signalのアニメ時評を読んですごいと思ったし、YAファンタジィのForbidden Libraryシリーズを「カードキャプターさくら」と「ヤミと帽子と本の旅人」に影響を受けたとか語っているのにはくらくらした。しかし他の二人も名うてのオタクだったらしい。なお全員すごい早口だったので正直よく聞き取れていない。
最初ジャブの応酬的に話していたところで、突然パーマーが手塚治虫「七色いんこ」の話をダーッとし始めた。「七色いんこ」の西洋文学のパロディという点を挙げていたと思う。その後、TRPG的なファンタジイ観の定着という話で、ドラクエやFFの話をしていたところ、客席からダークソウルは?と言う質問が出て、そこでひと盛り上がり。
その後なぜか触手レイプの話になり、その後製作委員会方式についての批判が。ファンタジィの話の延長で、ウェクスラーが「オーバーロード」を語りはじめて、アメリカ人もモモンガ様が好きなんだなあと思った。
最後に客席から西洋の原作を日本でアニメ化するとしたら?という質問が出て、他の二人はないわーという反応だったが、パーマーだけ「巌窟王」がすばらしいという話をしていた。そういえば前日の企画でも「巌窟王」を挙げていた。好きすぎるでしょ……。