フランス流SF紹介/Jean-Claude Dunyach "Separations"
- 作者: ステファンヌ・マンフレド,藤元登四郎
- 出版社/メーカー: 幻冬舎ルネッサンス
- 発売日: 2012/06/21
- メディア: 単行本
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ステファンヌ・マンフレド『フランス流SF入門』を読んだ。フランスの文学評論家によるSF解説書で、おもにSFに対する一般的な誤解や俗説(SFは子供向けであるとかSFは現実離れした逃避主義的なものであるとか)に対する反論から成っている。200ページほどのコンパクトなサイズにも関わらず、小説に映画、マンガ(バンド・デシネ)と幅広いメディアを扱っており、さらに説明上欠かせないということなのか紙幅の半分以上は英語圏のメディアについて語っている。そういうやや無謀な構成のためか、アメリカSFの歴史や書誌情報に関する部分には間違いもあると聞く。筆者には正誤を判断する能力はないけれど、ざっと読んだ感じの印象でいえばSFを現代の反映という当たり障りのない論旨へ落とし込むことが多いとか、話題が変わるたびに毎回SF史を総ざらえするわずらわしさなどは少し気になった。フランス独自の文脈を中心に語っているわけでもなく、全体として平凡でやや整理の荒いSF入門といったところだと思う。
とはいえやはり21世紀以降のフランスSFについて書かれている日本語の書物というは貴重である。作中で触れた作家の一覧などもついていて、知らない作家の名前がたくさん並んでいるのを見るだけで幸せになるような人はぜひとも入手すべきだ。また日本のマンガの影響についても書かれているので、フランスで攻殻やエヴァが読まれている! とかいってミーハーに喜ぶのもありだろう。
さて筆者もあいにくフランス語には暗いためこの本の作家紹介を読んでも指をくわえるしかないのだけど、ありがたいことに英訳されている作家がいるので、今回はそれを紹介したい。ブラック・コート・プレスという普段は18〜19世紀のSFや大衆小説といった骨董品をせっせと英訳している出版社があるが、そこがなぜか珍しく出している現代フランスSF。それがジャン=クロード・ドゥニャックの作品である。*1
ドゥニャックは1957年生まれ。応用数学の博士号を持ち、エアバス社のエンジニアとして働くかたわら80年代からSFを執筆している。その作風についてジェイムズ・モロウは編者を務めたユーロSFのアンソロジーThe SFWA European Hall of Fameの解説で、政治的・社会学的テーマを好む他のフランスSF作家と違いハードSFを志向しているというようなことを書いている。英語の「Hard SF」という語もやや含みのある言葉なので日本語のそれと同一視するわけにはいかないが、アイデア重視の作家くらいは言ってもいいだろう。
- 作者: James Morrow,Kathryn Morrow
- 出版社/メーカー: Tor Books
- 発売日: 2008/04/15
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The Night Orchid: Conan Doyle In Toulouse
- 作者: Jean-Claude Dunyach,Sheryl Curtis,Jean-Louis Trudel
- 出版社/メーカー: Hollywood Comics
- 発売日: 2004/03/31
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- 作者: Jean-Claude Dunyach,Jean-Louis Trudel,Sheryl Curtis
- 出版社/メーカー: Hollywood Comics
- 発売日: 2009/08/01
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スペースオペラ的な陳腐な道具立てと思わせておきながら、やはりどことなく英語圏SFとツボの置き所が違うと感じさせる。どちらかといえば一方通行な人間関係、無機質な文章、ラストの硬質な幻想などは神林長平の初期短編を思わせなくもない。その意味でも日本の読者にいつか届くといいと思う。
*1:ちなみにファンタジー方面でいえばピエール・ペヴェルというファンタジー作家のThe Cardinal's Bladesなどが英訳されているが詳しくないので子細は省く