Ghost Fleet by P.W.Singer and August Cole

Ghost Fleet: A Novel of the Next World War

Ghost Fleet: A Novel of the Next World War

P・W・シンガーといえば大量の資料を用いて現代の戦争の諸問題をクローズアップした『戦争請負会社』や『ロボット兵士の戦争』といった名ノンフィクションで知られる人物である。その彼が今度は小説を、それも近未来を舞台にした軍事シミュレーション小説を書いたという。現実のミリタリーは門外漢もいいところだが、現代の戦争の第一人者が幻視する近未来の戦争とはどんなものだろうという野次馬根性を抑えられず、ちょっと読んでみたのであったがーー(この記事は読みかけの読書メモである)。

あらすじ

時は近未来。中東での汚い爆弾によるテロが石油の供給不安定を引き起こし、大国間には不穏な空気が漂っていた。中国では旧共産党指導部を新たに台頭した軍産エリートたちが追い落としたことで政権交代が行われたが、国内での燃料需要の増加はアメリカやロシアとの間に緊張を生み、やがてマリアナ海溝に眠る巨大なガス田が発見されたとき、ついに新指導部は一線を越える。

周到に用意されたサイバー空間や宇宙での攻撃は米軍の通信網を破壊し、間を置かず米軍基地への強襲や破壊工作が開始される。マラッカでの海賊掃討の帰途、ハワイ基地に寄港していた沿海域戦闘艦USSコロナドは間一髪破壊を免れたが、艦長は戦死。副長シモンズは艦長代理として炎上する基地を後にコロナドの逃避行を指揮する。

感想

想像以上にド直球の軍事スリラーだった。シモンズという仕事と家庭の間で悩む等身大の人物を中心人物に据えつつ、開戦前後の場面を転々としていかに戦争が多次元的に展開されているかをディティール細かに描いている。トム・クランシー風といわれたら納得してしまいそうな出来映えだ。

しかし戦争の新しい形を描いているとかなんとか、そういう感じは全然しない。いかにも絶体絶命からの逆転劇という筋書きもそうだし、沖縄基地爆撃のくだりでドーリットル空襲の再現だということを作中人物が口にしているが、状況自体がある種太平洋戦争の再現みたいな雰囲気がなきにしもあらず。ドローンも一応登場するが戦局を左右するようなわけではないし。

とはいえ、この作品の値打ちはストーリーラインではなく、現実の国際情勢やテクノロジーにそこそこ基づいたリアルな細部にあるのだろう。実際、ノンフィクション作品同様に作中の状況や兵器には豊富な脚注が添えられている……のだが、これらはその根拠となった資料や記事へのリンクが張ってあるだけだったりする。Kindleで読んでるとURL1つたどるのも大変なので、二言三言でいいから解説文を入れてほしいと切に思う。

あえてSFファンの目から見てみると、大使館員が体内に高感度センサーを埋め込んでパーティーで情報収集を図ったり、ハックしたスマートフォンの各種センサ情報をいくつも重ねて重要施設の内部を浮かび上がらせるとかいったところは、もうすっかりSFだなという感じだ。シンガーには未邦訳のサイバーセキュリティに関する著書があるので、この辺はお手のものだろう。とはいえ想像で書いている部分はやや凡庸さもあり、例えば上海交通大学の少女ハッカーが指輪型デバイスをひらひらさせながら米情報機関のセキュリティを突破するなんてのはあまり現実味を感じない。ドクトロウとかの方がまだ説得力ありそう。

米軍がハワイでボロ負けしたほんの序盤だけ読んだので、この後は表題通り老朽化した予備艦隊(ゴースト・フリート)を率いて中国軍に反撃する熱い展開が続くのだろうけど、正直ディティールを除けば仕事で読んでるミリタリーSFとそう変わらないので、いったんバチガルピを読むのに戻る。気が向いたら続きも読むかも。