2018年の注目SF/FT

去年は後半忙しかったこともあるが、情報を集める自体が目的になってしまうことに疑問を覚えてブログの更新が止まってしまった。今年はその反省を生かして、もう少し情報に対する自分の関心の方に軸足を置いた記事を書いていきたい。

年明け早々今年のSF/FT刊行予定リストが色々上がってきているので、今年気になっている・買おうかと思っている作品をチョイスしてみたい。読むかどうかはあやしいところだが。

ネタ元のURLは以下。

2月

Ambiguity Machines: and Other stories by Vandana Singh

Ambiguity Machines: and Other stories

Ambiguity Machines: and Other stories

作者初の短篇集、って前にも出していたはずだがと思ったら、そちらは(作者の故郷の)インドでしか流通していないようだった。この作家、そろそろ長篇書いてくれないものか。

Semiosis: A Novel by Sue Burke

Semiosis

Semiosis

植物型知性とのファーストコンタクトもの。オールドスタイルといわれるとそうだが、こういうの今の英米SF界ではむしろ貴重だと思うので大事にしたい。バークという人はスペイン語SFの英訳で知られていたのでなんとなくスペイン人だと思っていたが、アメリカ人だと初めて知った。

4月

Before Mars by Emma Newman

Before Mars (A Planetfall Novel)

Before Mars (A Planetfall Novel)

作者のSFデビュー作 Planetfall と同じ宇宙を舞台にした長篇。強迫症的な重苦しい文体でなかなか読むのが苦しいのだが、これまでのシリーズが全部最後ひどいことになって終わるので、どこまで行くのか見届けたい気もあり。

5月

Rig by Roger Levy

The Rig

The Rig

ロジャー・レヴィって私がSF原書を読み始めたころに長篇を書いてそれっきり途絶えていた作家なのだが、このたび新作を書いたということでちょっと気になっている。内容は銀河に人類が広がった未来で、死後の生を全人類の投票で決定する……これだけ読むとあまり冴えない感じだが。

Twelve Tomorrows edited by Wade Roush

Twelve Tomorrows

Twelve Tomorrows

MITテクノロジーレビュウが出してる未来予測SFアンソロジーの最新作。寄稿者はいつものリュウやレナルズのほか、マルカ・オールダーや劉慈欣など。同じ名前のアンソロジーが既にいっぱい出てるので、せめて2018とかつけてくれないだろうか。この前ローカスのドゾワの短篇評を読んでいたらこのタイプの作品を「シンクタンク・フィクション」と呼んでいてなかなか的確な名前だと思った。

6月

The Freeeze-frame Revolution by Peter Watts

The Freeze-frame Revolution

The Freeze-frame Revolution

ワッツの新作ノヴェラの単行本。内容紹介には6000万年後に主人公が目覚めて危機的状況にさられされることぐらいしか載ってないが、このインタビューによると短篇「島」と同じ宇宙の話。翻訳待ちでいいか。

Summerland by Hannu Rajaniemi

Summerland

Summerland

本当に本当に長く待たされた待望のライアニエミの新作単発長篇。死後の世界が実在する1938年で、死後の世界のテクノロジーをめぐり英国の諜報員とソヴィエトのスパイが火花を散らす。作者はどこかのインタビューで「エクトプラズム・パンク」と冗談めかして呼んでいたが、いつものポストヒューマンものの変奏でもあり、冷戦スパイものでもある。楽しみしかない。この際小説の出来は二の次(暴言)。

7月

The Calculating Stars by Mary Robinette Kowal

The Calculating Stars: A Lady Astronaut Novel

The Calculating Stars: A Lady Astronaut Novel

そっちがエクトプラズムなら、こっちはパンチカード・パンク。隕石による災害に後押しされて宇宙開発が進んだ改変歴史世界の1950~60年代で、女性たちが因習を打ち破って宇宙飛行士を目指すという、映画「ドリーム」のSF版といった話。同作者のノヴェレットと同じ世界設定だということだが、そっちは読んだのだったか。

Infinity's End edited by Jonathan Strahan

Infinity's End

Infinity's End

ストラーンのInfinityシリーズアンソロジーの最終巻。なかなかシリーズ物のアンソロジーというのが流行らない中、けっこう長く続いたと思うが、個別の収録作のインパクトは下がり気味だった印象。最後にひと花咲かせるくらいの傑作が載っていることに期待。

9月

  • The Reincarnated Giant: An Anthology of Twenty-First-Century Chinese Science Fiction

The Reincarnated Giant: An Anthology of Twenty-first-century Chinese Science Fiction (Weatherhead Books on Asia)

The Reincarnated Giant: An Anthology of Twenty-first-century Chinese Science Fiction (Weatherhead Books on Asia)

コロンビア大学出版から出る現代中国SFアンソロジー。すでにケン・リュウ編の『折りたたみ北京』があるわけだが、あちらはケン・リュウ趣味という感じなので色々な角度から出るのは好ましいこと。収録作がかぶってないことを祈りたい。

12月

Rosewater by Tade Thompson

Rosewater (English Edition)

Rosewater (English Edition)

この本しばらく前に出てなかったかと思ったら、2016年にペーパーバックが出ていてkindle版はこれが初のようだ。アフロフューチャリズムがしばらく前から現代SFの方向性の一つとして掲げられているが、アイデンティティ・ポリティクス寄りでないアフリカ系SFの傑作というのに興味があるのでメモ。

9/1~30 SF情報

近刊情報

バチガルピとバッケルが久しぶりに共作ファンタジィを書くとのこと。前の話忘れちゃったな。

実在しないTVゲームのガイドブック。日本にもなんかこういうのありましたね。こっちはSFではなく、偽プレイ画像とかのそれっぽさを楽しむもののようだが。

2018年夏刊行予定のメアリ・ロビネット・コワルの女性宇宙飛行士をテーマにした1950~60年代改変歴史小説。パンチカードパンクとはよくいったもの。Hidden Figuresとかハーヴァード大学天文台の女性の話(本名忘れた)とか流行っているのかね。

ライアニエミのSummerlandのUS版は結局2018年夏刊行予定。正直US版でもUK版でもこだわらないので早く売ってほしい。こっちはエクトプラズムパンクだ。

オーディオブックから転じて本になったハードSF年間傑作選。傑作選も際限なく増えていくな。そしていまいちハードSFっぽくないラインナップ。

書評

インタビュー

その他記事

ソーラーパンクとは何だったのか? 個人的には(元々破滅SFに近い傾向の)Cli-Fiに対応するオプティミスティックなSFの潮流という風な理解だが、結局メジャー(大手SFレーベルや賞レース)に上がってこないのでなんかやってるな、というところで終わってしまうのだよな。

Medium主催のベーシックインカムをテーマにしたSF短篇コンテスト。審査員にハンヌ・ライアニエミ。

来年SETIならぬMETI(宇宙にメッセージを送る方)を実施する計画。チキンブリトーを用意しなければ。

デューン」のネタ本である19世紀ダゲスタン(チェチェンの隣)のイスラム指導者イマーム・シャミールの伝記を紹介。イスラム・中東の影響はもちろん読めば感じるわけだが、明確な元ネタがあったのね。

インドSFの紹介記事。インドSFもいずれ中国SFみたいに英語圏で躍進するのだろうか。

8/16~31 SF情報

近刊情報

先頃ヒューゴー賞ノヴェラ部門を受賞したショーナン・マクガイアの再来年刊行予定の最も野心的な作品。SFだろうか。だいぶ先だが気になる。

滅びつつある地球を脱出する巨大移民船で出港直前に殺人が起きる……という物語。なんか移民船+殺人事件というSFミステリをこれの前にも見たような気が。

ワールドコンの北欧SFの紹介パネルで名前の挙がっていたノルウェー産SF。養蜂家の一族の何世代もの軌跡を通して、過去から未来を描く作品らしい。

書評

インタビュー

賞関連

去年新設されたドラゴン賞でノミネートされたジョン・スコルジーたちが文化戦争に巻き込まれるのは本意ではないとノミネートを辞退。ドラゴン賞ができたとき、ヒューゴー賞を捨てたパピーズのみんなの受け皿になってお互いの好きな本を顕彰してウィンウィン……という展開を期待していたのだけど、そうもいかなかったようだ。

TOC

ニール・クラークのアンドロイドSFアンソロジーのTOC。再録中心か……。

その他記事

奇妙なキノコの登場するSFFリスト。

ジーリー・シリーズの最新作Xeelee:Avengeanceで「Xeelee」の発音が「チーリー」と書かれてしまったことでシリーズ読者に波紋。邦訳の際はアリオッチみたいに直さないといけないのだろうか……と思ったが、バクスターが訳される気配がないので関係なかった。

GRRマーティンが『氷と炎の歌』の続きを書かないので、既刊で学習させたAIに書かせたという話。しょうもない。

ワールドコン75(2日目)

8/10に回ったところの記録。ちなみに、今回企画を選んだ基準は次の通り。

  • 英語圏SF関連
  • アニメ・マンガ関連
  • 少なくとも名前を知っている作家が一人は登壇している

興味の方向性と、あと共通知識があって理解しやすそうな観点から選んだ。科学系パネルなども選択肢に入れていたが、初日の聞き取れなさでダメだと思ってだいたい全部諦めた。

11:00Signing: Julie Novakova

ジュリー・ノヴァコヴァはチェコのSF作家。英語でも作品を発表しているが、どちらかというと筆者の関心はチェコSFの翻訳者としての彼女にある。Tor.comに掲載されたハヌシュ・セイナーの短篇の英訳 Hexagrammaton はたとえて言うなら神林長平の現実改変フィクションのような、あまり英米SFで感じたことのない読み心地だった。内容についてはSFマガジン2017年8月号のNovel&ShortStoryレビュウで取り上げたので、そちらをご参照あれ。

www.tor.com

そんなわけでちょっと会ってみたい気持ちもあり行ってみた。サイン会場はトレードホールの一角にあり、特定の時間帯に5人くらいの作家のサイン会をまとめて行う。このシステムがなかなか残酷で、人気のシリーズを持っているファンタジィ作家などは山ほど来るし、まだ著書がなかったり知名度のそれほど高くない作家はがらんとしており、明暗が分かれる。幸か不幸かノヴァコヴァは暇そうだったので、すぐに順番が来た。

「Tor.comでの翻訳を読んで感銘を受けた。もっとこういうチェコSFを読んでみたい」というようなことを拙い英語で伝えたところ、なんとか伝わったようであった。ちなみに「あなたはもしかして彼の知り合いか?」といわれてユキシゲゼンニ氏のTwitterを見せられた。まあ日本人とチェコSFという組み合わせが珍しいということだろう。

12:00 Superintelligence

パネリスト

超知性について討論するパネル。例の2階の会議室だったため、先手を打って30分前から列に並び無事入ることができた。われわれは賢いので。

司会役のクロスヒルが超知性と汎用人工知能の違いをどう考えるか、経済、特にビットコインのようなデジタル化された経済への影響はどうか、人間の雇用問題にどう作用するか、自分の子どもたちは超知性とどう付き合うかなどの質問を歯切れよく投げかけ、それにパネリストがそれぞれ応じるという形でうまく進行していた。個々のパネリストの発言についてはあまり記憶していないが、あまりSF的な想像力をたくましくせず、常識的な見解が主だったと思う。そういう意味では科学系のパネルだったといえるかも。

14:00 Has “Hard SF” Changed as a Genre?

パネリスト

  • Heidi Lyshol
  • Kathleen Ann Goonan(作家)
  • Andrew Barton(作家)
  • Michael Capobianco(元SFWA会長)

コンベンションセンター外の Rauhanasema が会場。築100年近い瀟洒な建物で、3日目のジャパンパーティー会場でもある。

このパネルではハードSFを50年代のクラークを例としたテクノロジーで問題を解決することを主題としたSFと定義して、そこから変化したかどうかを討論した。結論からいうと変化はあった、作家の関心は多様化し、よりスタイルに腐心するようになったということである。一方で『火星の人』のような古典的なSFが登場しメガヒットしているのはどういうことなのか、といった議論が交わされた。

個人的にはグーナンもだいぶスタイリストだし、ハードSF作家という扱いはいささか謎なのだが、面白かった。グーナンは現在ジョージア工科大学のクリエイティブ・ライティングの教授職を務めているそうなので、SFを教える立場のとしての発言なのかもしれない。

15:00 Writing from Home and Writing from Diaspora(参加できず)

ケン・リュウやゼン・チョウ、そして劉慈欣などの国内外で活躍するアジア系SF作家が参加する企画だったが、例によって人数制限で入れず。やれやれ。連続する時間帯の企画は入れない、という認識がこの辺で定着した。

17:00 Science Fiction and Fantasy from and about the East

プレゼンター

  • Bao Shu(作家)

この企画はパネルではなく単独の登壇者によるプレゼンテーション。バオ・シュウ(宝树)は中国のSF作家で、『三体』のスピンオフ長篇でデビューした新進の作家。タイトルからは判然としないが、中国SFの中でも改変歴史ないし時間SFに該当する作品の通史を語っていた。英語はそれほど得意ではなさそうだが、なんといってもスライドがあるというだけで大変にありがたい。中国の僧が異星人の力を借りてアメリカに行く話とか(話で聞くぶんには)面白そう。次の企画に出たかったので悪いが中座した。

18:00 European SFF

パネリスト

  • Kristina Hard(スウェーデン、作家)
  • Barbara G. Tam(イギリス、作家)
  • Francesco Verso(イタリア、作家)
  • Ju Honisch(ドイツ、作家)
  • J Sharpe(オランダ、作家)

昨日の北欧作家パネルに続き、ヨーロッパのSFF作家によるパネル。元々オランダ枠には『魔女の棲む町』のトマス・オルディ・フーヴェルトが来る予定だったが、なぜか不在だったようで同国人のシャーペが登場。

昨日のように作品紹介から入るのかと思いきや、割と出版事情の方に話の焦点が向かう。初版1500部とかいう世知辛い数字が出たり、出版社が読者がどこにいるか理解していないとか。フランチェスコ・ヴェルソなんて書くのが作家の仕事、マーケティングは出版社の仕事だろうとだいぶご立腹だったようす。そこで例によって英語で出すという話になるが、あれだけ英語で話せていても直接英語で書くというのはできる人できない人がいるらしい。では翻訳ではというと、やはり意図が厳密に伝わらない。ドイツ語で書くとユーモアが抜け落ちて堅苦しい文章で訳されるというジョーク(?)も出た。

特に結論が出るわけでもなく、みんな大変だねという話でおしまい。

20:00 Ideas Crossing the World: Japanese Adaptations of Western Fantasy

パネリスト

  • Jonathan Clements(翻訳者・編集者)
  • Django Wexler(作家)
  • Ada Palmer(作家)

この日最後の企画は西洋的なファンタジィのイメージを日本のアニメやマンガがどう表象したかというパネル企画。筆者がひときわ注目していたのはファンタジイ作家で重度のアニオタのジャンゴ・ウェクスラーである。ツイッターにも書いたがSF Signalのアニメ時評を読んですごいと思ったし、YAファンタジィのForbidden Libraryシリーズを「カードキャプターさくら」と「ヤミと帽子と本の旅人」に影響を受けたとか語っているのにはくらくらした。しかし他の二人も名うてのオタクだったらしい。なお全員すごい早口だったので正直よく聞き取れていない。

最初ジャブの応酬的に話していたところで、突然パーマーが手塚治虫七色いんこ」の話をダーッとし始めた。「七色いんこ」の西洋文学のパロディという点を挙げていたと思う。その後、TRPG的なファンタジイ観の定着という話で、ドラクエやFFの話をしていたところ、客席からダークソウルは?と言う質問が出て、そこでひと盛り上がり。

その後なぜか触手レイプの話になり、その後製作委員会方式についての批判が。ファンタジィの話の延長で、ウェクスラーが「オーバーロード」を語りはじめて、アメリカ人もモモンガ様が好きなんだなあと思った。

最後に客席から西洋の原作を日本でアニメ化するとしたら?という質問が出て、他の二人はないわーという反応だったが、パーマーだけ「巌窟王」がすばらしいという話をしていた。そういえば前日の企画でも「巌窟王」を挙げていた。好きすぎるでしょ……。

ワールドコン75(1日目)

8/9〜13にかけてフィンランドヘルシンキで開催された第75回世界SF大会、通称ワールドコンに参加したので、その感想を綴ってみる。なお英語の本を読んでいるくせに筆者は英会話などはまったくダメなので、内容の正確さについては保証しない。

10:00 会場着・参加登録

参加登録は9時から始まっていたので、もっと早く着くつもりだったが、トラムの路線を乗り間違えてたりして10時半頃ようやく会場 Messukesukus ことヘルシンキ・エキスポ・コンベンションセンターに到着(トラムにはその後も延々乗り間違えるのだが、その話はここでは置いておく)。

登録は事前に印刷しておいたバーコードをスキャンして、すんなり終わった。ネームプレートやスーベニールブック、プログラム一覧など渡される。ちょっと嬉しかったのは、無料配布のアンソロジー Giants at the End of the World。フィニッシュ・ウィアードというくくりでフィンランドの現代作家の書いた短篇の英訳が載っている。ヨハンナ・シニサロ、エンミ・イタランタなど邦訳のある作家もちらほら。個人的に一番ぐっときたのは、ハンヌ・ライアニエミの今年結局出なかった長篇 Summerland の冒頭が載っているところだろうか。

本格的に企画が開始するのは午後からなので、それまでは正直何もすることがない。この後もこういう時間がしばしば発生したので、同行者がいたらよかったのにと思った。しょうがないのでソシャゲで時間を潰す。フィンランドプリペイドSIMはWifi並に早く、パケット量も上限なしとソシャゲにはぴったりだ。

13:00 ディーラーズルーム開場

展示およびディーラーズルームが開場したので、適当に流す。ちなみに正式にはディーラーズではなくトレードホールという名前になっていた。業者ばかりでなく個人販売もあるからということだろうか?よく分からない。打ちっ放しのスペースに机が並び、適度に空間が開けている感じは文フリに似ている。まだ展示者側も客側も閑散としていて、中国の科幻世界のスペースなどは過去号をだらっと並べてスペースに人がいないという状態でおいおいと思った。

出版社のコーナーで以前から発売予告されていたエンミ・イタランタ選のフィンランドSF/Fの英訳アンソロジー Never Stop を購入。先のGiants〜に比べると、これまで翻訳のなかった作家に焦点を当てているようである。なお会場限定だと思い込んでいたが、普通にKindle版が買えた(それも会期前から!)

Never Stop (English Edition)

Never Stop (English Edition)

もう一冊、ヤリ・コポネン(Jari Koponen)の World SF in Translation を購入した。コポネンはフィンランドでは古株のSFレビュアーで、非英語圏SFの収集に関心があるらしい。この本は原語から英語に翻訳されたSFのリファレンス本で、世界54カ国・著者1165名を扱っているという。2012年刊行だから新鮮な情報には期待できないがなかなか面白い。実用性があるかといわれると困るが、突然エルサルバドルSFやジンバブエSFの情報が必要になるかもしれないのが人生だ。

14:00 Nordic SF/F Nowパネル

パネリスト

※本来はウムラウトストローク記号を伴うが、入力が難しいので記号なしでご容赦いただきたい

ついにワールドコン初の企画である。会場外のパシラ図書館2階の講堂で開かれた。元の席数が少ないこともあるが、すぐ埋まって立ち見ができていた。 パネル企画は複数人による討論形式で、スライドなどはほぼ使われない。つまり話について行けないとほとんど理解できない。これには最後まで悩まされた。

内容としてはプラグラムにあった通り、北欧4国の近年のSF状況や代表作について各パネリストが解説を行った。おおむね自国市場の小ささやSFに対する関心の低さがネックになっているようだった。ダン・シモンズニール・スティーヴンスンに人気がなくて、リアリスティックな話ばかり求められているというのはつらかろう。ノルウェーには政府の本の買い上げ制度があるらしく(ツイッターで検閲とか書いちゃったが検閲があったらやばいだろう……)、「全部政府に買い取ってもらえばいいのでは?」とかネタにされていた。

それにしても全員非英語圏の住人なのに、英語でコミュニケーションしていて頭が下がる。フィンランドのMakelaはその中では割と苦手なようですぐ詰まっていたが、発音や聞き取りには問題ないようで、英語で思考するというのが難しいようだった。 デンマークのAhnはデンマークSFのアンソロジーSky Cityに作品が載っているらしい。これは読んでいるはずだが、あまり記憶に残っていない。

Sky City

Sky City

15:00 Opening Ceremony

15時からオープニングセレモニーだった。総合司会は作家のカレン・ロード。ロードはヒューゴー賞授賞式やマスカレードでも司会を務めていたが、落ち着いたよく通る声でナレーターとしても務まりそうだった。

進行は開会の挨拶に続き、伝統芸能の披露、アカペラグループの合唱、ゲスト・オブ・オナーの紹介、また合唱、ダンスと続く。ごく正直にいうと学芸会っぽいなーと思ったのだが、SFコンベンションにオリンピック開会式ばりのアトラクションを期待するのもおかしいと思い直した。よく見てみると手作りならではあたたかみを感じないでもない……。

合唱については、以前欧州のコンベンションを紹介しているFandom RoverブログのSwenconの記事で、北欧のコンベンションではこういうのがあるというのを読んでいたので、実際に体験できてちょっと嬉しかった。綺麗なコーラスにカエルの鳴き真似みたいな妙な音が混ぜてくるところが民族音楽らしい。

Fantastika 2016 – Swecon 2016 - Fandom rover

18:00 Anime and Manga for SF/F Fans(参加できず)

いざ企画に行こうとして、異様な長さの行列ができていることに気付いた。慌てて自分も並んだものの、入場が開始して自分から数人前のところで締め切られてしまい参加は叶わなかった。

後から知ったことだが、2階の会議室は収容人数が少なく、しかも立ち見を許可しない方針だったため熾烈な争いになっていたのである。この列競争は最後まで続き、3日目くらいからはついに最後尾札が登場して文化を感じた。しょうがないので展示ルームに行って、ボドゲに興じる人たちを観察して時間を潰した。

ちなみに、この企画で挙がった作品についてパネリストの一人エイダ・パーマーがTwitterに挙げてくれていた。

みんなオタクだなあ。

7/17~29 SF情報

ベスト2017

近刊情報

書評

マックス・ブルックスのマイクラ小説、気にはなっていたのだけど冒頭試し読みした感じ子供向けみたいで興味が失われる。実際にプレイ経験があるとまた違うかも知れないが。

インタビュー

その他記事

子供時代の性的虐待を扱ったViceの記事だが、このうちPeter Troyerの事例が「子供時代スリランカに住んでいて、著名なイギリスのSF作家から虐待を受けた」ということでSF界の一部で動揺が走ったとか。

ジェフ・ライマンのアフリカSF紹介(以前Tor.comとかに載っていたやつとは別?)に加えて、英語のアフリカSFが複数本掲載。

「メッセージ」の脚本家が今度は「ドキュメンタリー:顔の美醜について」のTVシリーズ化を画策している。「理解」とどっちが先か。

映像化といえば、エイドリアン・チャイコフスキーのChildren of Timeも映画化の話が。

7/1~15 SF情報

ベスト2017

半年終わったところでこれまでのところの暫定年間ベストがポツポツ出ている。藤井太洋『オービタル・クラウド』がどっちにも入ってる。もっともTor.comの方はひねくれた言い方をすれば非英語圏枠みたいな扱いだが。日本の小説が英語圏で評価されて格別うれしいという気持ちはないが、優れた小説がそれに見合った評価を得られることはいいことだと思う。 あとついでにハイカソルはBento Booksから〈天冥の標〉シリーズの翻訳権ぶんどって続きを英訳してくれ。

近刊情報

クリストファー・ロウの短篇集。「志願兵の州」の続篇はちょっと読んでみたいような。

上記の暫定年間ベストで取り上げられていたアルゼンチンの作家による人格アップロードSF。紙の本しかないのが残念。

書評

インタビュー

TOC

その他記事

ごまんと世にあるSF創作・批評のウェブジンの1つだが、2017年春号はアーサー・C・クラークの個別作品へのトリビュートというちょっと面白い企画。