2016/5/23~28 SF情報

近刊情報

来年刊行だが、スコルジーとドクトロウの新作について。スコルジーの方はなかなか面白そう。毎度クラシックな娯楽SF路線だけどB級と思われるほど安っぽくない、みたいな微妙なラインを攻めてる気がする。

ソラリス・ブックスからはMagic the Gatheringのノンフィクションが刊行される。これも来年。

書評

インタビュー

パオロ・バチガルピのAMA(~だけど質問ある?)。具体的な新刊情報はシップブレイカーシリーズの続編ぐらい。

賞関連

ジョー・ウォルトンがヒューゴー賞のゴタゴタを尻目に遊び心で創設した賞。通常の投票数とは別に運だめし的な要素(RPGっぽい)が投票結果に影響する。

その他記事

ジョン・クロウリーが17世紀に書かれた薔薇十字団のテキスト『化学の結婚』を翻訳するという。それはいいのだが、同書を『フランケンシュタイン』に200年先立つ世界最初のSF小説だと言い出して批評家筋が困惑。

疑似なろう系異世界ファンタジー?

かえすがえすもSF Signalは偉大だった……。

ドリス・ピサーチアはニュー・ウェーブ期の作家だそうだが、全然知らぬ。バリントン・ベイリーが流行るような世の中なので、発掘する価値はあるかも?(ないかも)

2016/5/16~21 SF情報

近刊情報

ブライアン・トーマス・シュミット編のYAアンソロジー。面子が立派じゃん……と思ったら大体再録のもよう。

書評

インタビュー

アシュビーの新刊関連の書評・インタビューが多い。デイヴィッド・ニッケルと結婚してたの初めて知った。

ダニエル・ホセ・オールダーは名前は最近よく聞くがどんなもんか。主に記憶に残ってるのは昨年の世界幻想文学大賞のトロフィーの件(代々ラヴクラフトの胸像だったが人種差別を作中で書いていたことから批判が出てデザイン変更された)なのだけど。

TOC

賞関連

その他記事

筆名を使っていた作家リスト。K・J・パーカー=トム・ホルトだったのは本当に驚いた。

SFとジャーナリズムを架橋する新しいメディアだそうな。会員制なので内容まで見られず。

現代SF/FTの8つの部族について。ダミアン・ウォルターは結構適当こく奴なのでネタとして。

イーガンの新作の話で盛り上がるReddit民。早速逆転世界が引き合いに出されてるのは洋の東西を問わず。

2016/5/8~5/14 SF情報

近刊情報

ウィリアム・ギブスンがほめたことで人気になったとかいうテクノスリラー。

書評

今週発売のティドハーの新作レビューが多かった。既存の短篇をまとめて小説にしたのか。意識していた過去作品のうち、シマックは意外といえば意外。スミスは割と分かる。『完璧な夏の日』にヴォマクト博士も出てきたし。

TOC

年間傑作選も知らない作家がいっぱいだわ。ファンタジィ方面は特に。

賞関連

その他記事

ソーラーパンクは名前だけは聞くがまともな作品の形でまだ見たことがない。

GithubのAwesomeシリーズにSFが!

RedditのSFスレから『星を継ぐもの』、ハードSF、ループものなど。

ゲームの出てくる小説選。この手の奴にエンダーを入れるのはいい加減やめろ。

2016/5/1~5/7 SF情報

SF情報サイトSF Signalが更新停止してしまった。2003年から続いていたということなので、英米SFを読み始めてからこのかたずっとお世話になってきたことになる。今までありがとう。R.I.P.

しかしこうなると、近々のSF情報をざっくり把握する手段がなくなってしまってつらい。代替手段としてしばらく備忘録的にブログに収集したリンクをまとめておく(ブックマークだとまったく見なくなってしまうので)。これもそのうち面倒くさくなると思うが、それはその時また考えよう。

近刊情報

メジャーなところではティドハーの新作SF。新人ではエイダ・パーマーは面白いのだろうか。ジェイ・ポージイがちょい気になる。

書評

マルカ・オールダーのは時節柄というわけでもないだろうがサイバー選挙もの。続編も出るらしい。パーマーは評価は高いがあまり私の必要そうな本ではなさそう。この人はTor.comで水木しげるの追悼記事を書いていたのが印象に残っている。

インタビュー

USJの作者の人が好きなファンタシースターはオンラインじゃないやつ?

賞関連

その他記事

Kickstarterのやつはまだ参加してなかったので。

Ghost Fleet by P.W.Singer and August Cole

Ghost Fleet: A Novel of the Next World War

Ghost Fleet: A Novel of the Next World War

P・W・シンガーといえば大量の資料を用いて現代の戦争の諸問題をクローズアップした『戦争請負会社』や『ロボット兵士の戦争』といった名ノンフィクションで知られる人物である。その彼が今度は小説を、それも近未来を舞台にした軍事シミュレーション小説を書いたという。現実のミリタリーは門外漢もいいところだが、現代の戦争の第一人者が幻視する近未来の戦争とはどんなものだろうという野次馬根性を抑えられず、ちょっと読んでみたのであったがーー(この記事は読みかけの読書メモである)。

あらすじ

時は近未来。中東での汚い爆弾によるテロが石油の供給不安定を引き起こし、大国間には不穏な空気が漂っていた。中国では旧共産党指導部を新たに台頭した軍産エリートたちが追い落としたことで政権交代が行われたが、国内での燃料需要の増加はアメリカやロシアとの間に緊張を生み、やがてマリアナ海溝に眠る巨大なガス田が発見されたとき、ついに新指導部は一線を越える。

周到に用意されたサイバー空間や宇宙での攻撃は米軍の通信網を破壊し、間を置かず米軍基地への強襲や破壊工作が開始される。マラッカでの海賊掃討の帰途、ハワイ基地に寄港していた沿海域戦闘艦USSコロナドは間一髪破壊を免れたが、艦長は戦死。副長シモンズは艦長代理として炎上する基地を後にコロナドの逃避行を指揮する。

感想

想像以上にド直球の軍事スリラーだった。シモンズという仕事と家庭の間で悩む等身大の人物を中心人物に据えつつ、開戦前後の場面を転々としていかに戦争が多次元的に展開されているかをディティール細かに描いている。トム・クランシー風といわれたら納得してしまいそうな出来映えだ。

しかし戦争の新しい形を描いているとかなんとか、そういう感じは全然しない。いかにも絶体絶命からの逆転劇という筋書きもそうだし、沖縄基地爆撃のくだりでドーリットル空襲の再現だということを作中人物が口にしているが、状況自体がある種太平洋戦争の再現みたいな雰囲気がなきにしもあらず。ドローンも一応登場するが戦局を左右するようなわけではないし。

とはいえ、この作品の値打ちはストーリーラインではなく、現実の国際情勢やテクノロジーにそこそこ基づいたリアルな細部にあるのだろう。実際、ノンフィクション作品同様に作中の状況や兵器には豊富な脚注が添えられている……のだが、これらはその根拠となった資料や記事へのリンクが張ってあるだけだったりする。Kindleで読んでるとURL1つたどるのも大変なので、二言三言でいいから解説文を入れてほしいと切に思う。

あえてSFファンの目から見てみると、大使館員が体内に高感度センサーを埋め込んでパーティーで情報収集を図ったり、ハックしたスマートフォンの各種センサ情報をいくつも重ねて重要施設の内部を浮かび上がらせるとかいったところは、もうすっかりSFだなという感じだ。シンガーには未邦訳のサイバーセキュリティに関する著書があるので、この辺はお手のものだろう。とはいえ想像で書いている部分はやや凡庸さもあり、例えば上海交通大学の少女ハッカーが指輪型デバイスをひらひらさせながら米情報機関のセキュリティを突破するなんてのはあまり現実味を感じない。ドクトロウとかの方がまだ説得力ありそう。

米軍がハワイでボロ負けしたほんの序盤だけ読んだので、この後は表題通り老朽化した予備艦隊(ゴースト・フリート)を率いて中国軍に反撃する熱い展開が続くのだろうけど、正直ディティールを除けば仕事で読んでるミリタリーSFとそう変わらないので、いったんバチガルピを読むのに戻る。気が向いたら続きも読むかも。

年間傑作選が多すぎる

アンソロジーには旬のようなものがあって、出るときにはやたらとまとめて出るようだ。年間SF傑作選もまたしかり。2000年にはガードナー・ドゾワとデイヴィッド・ハートウェルというベテラン編集者による二大体制だったのが00年代にかけてポツポツと増えていき、2005〜2006年には実に5冊も出ていた。2006年は次の5冊。

The Year's Best Science Fiction Twenty-fourth Annual Collection

The Year's Best Science Fiction Twenty-fourth Annual Collection

Year's Best SF 12

Year's Best SF 12

The Best Science Fiction and Fantasy of the Year vol.1

The Best Science Fiction and Fantasy of the Year vol.1

Jonathan Strahan: Best Short Novels 2006

その後、ストラーンのBest Short Novelsシリーズがなくなり、残る4シリーズの体制が10年代まで続いていたが、2012年でハートウェルのシリーズも休止。しかし今年になって突如新顔が3シリーズ同時に現れ、ちょっとした群雄割拠の様相を呈している。

以下は計6シリーズの個人的な観点に基づく紹介である。

ガードナー・ドゾワ The Year's Best Science Fiction

The Year's Best Science Fiction: Thirty-second Annual Collection

The Year's Best Science Fiction: Thirty-second Annual Collection

今年32年目を迎える最長寿シリーズ。名前通りの傑作選というよりは、その年に活躍した作家を俯瞰するように作品をチョイスしている感がある。その年の短篇を総括する長文エッセイが載っていたり、掲載されなかった作品が選外作リストという形で載っていたりで、リファレンス的には重宝する。準公式短篇ガイドブックとでも言おうか。

そういう性質なのでセレクションにそれほど面白味はなく、1年間短篇SF界隈をウオッチしていればだいたい落ち着くところに落ち着いている。とはいえ御年68歳(1947年生)のドゾワがこんな大部のアンソロジーをこれまで毎年編んできたこと自体が一つの驚異といえなくもない。

ジョナサン・ストラーン The Best Science Fiction and Fantasy of the year

BEST SFF VOL. 9

BEST SFF VOL. 9

人気SFアンソロジスト、ストラーンによる傑作選。旬の作家を山ほど集めて超つよいオリジナルアンソロジーを作ることにかけては当代随一の編者だが、年間傑作選に関してはドゾワとやや似た俯瞰的なチョイスになっている。とはいえドゾワに比べて新しめの作家が多かったり、こんな作家もいたかという発見があったりして新鮮。どれか一つ年間傑作選を選ぶならこれだろう。個人的にはファンタジイは分離してほしいのだけど。

リッチ・ホートン The Year's Best Science Fiction & Fantasy

The Year's Best Science Fiction & Fantasy 2015 (Years Best Science Fiction)

The Year's Best Science Fiction & Fantasy 2015 (Years Best Science Fiction)

ローカスの短篇書評で知られるホートンの傑作選。前者2つに比べると、作品自体に焦点を当てたチョイスになっていて、TOC(目次)を見ていてもこんなのが入っているのかという驚きがある。新しめの作家も容赦なく入っているので、青田買いにも有効だろう。

ただローカスの書評を見ている限り、個人的にはホートンと趣味が合いそうにない。2014年版を見ていたらトム・パードムとか入っていて、「なんで21世紀にパードムとか入れてるんだ? ふざけているのか〜!」みたいな気持ちになった。

ジョー・ヒル&ジョン・ジョゼフ・アダムズ The Best American Science Fiction and Fantasy

The Best American Science Fiction and Fantasy 2015

The Best American Science Fiction and Fantasy 2015

ここからが今年始まった3シリーズ。編者のジョー・ヒルは他でもないあのジョー・ヒルである。有名なBest Americanシリーズの1つとして出るものらしい。なぜ2015年になって突然とも思うが、それより何よりやはりヒルである。何が出てくるかまったく予想がつかない。

まあEditorにヒル、Series Editorにアダムズがクレジットされているところを見ると、ヒルは年ごとに変わるゲスト編集者という扱いなのだろうけれど、とりあえず期待である。

ポーラ・グーラン The Year's Best Science Fiction & Fantasy Novellas

The Year's Best Science Fiction & Fantasy Novellas 2015

The Year's Best Science Fiction & Fantasy Novellas 2015

ノヴェラ(中篇)のみによる傑作選。ノヴェラはどうしてもページを喰うので、通常の傑作選には混ぜずにノヴェラのみで1本編んだのだろう。00年代前半にストラーンが作っていたノヴェラの傑作選の復活版といった感じか。

編者のグーランはダークファンタジイやホラーの傑作選をメインでやっている人で、それはまあいいのだが、TOCを見ると今ひとつ食指がひかれないというか……。いや、読んでないのにあれこれ言うのはよくないな。反省。

デイヴィッド・アフシャリラド The Year's Best Military SF & Space Opera

The Year's Best Military SF and Space Opera (BAEN)

The Year's Best Military SF and Space Opera (BAEN)

ありそうでなかったミリタリーSFとスペオペに特化した年間傑作選*1*2。編者は版元ベイン・ブックスの編集者らしい。

どうせベイン・ブックスの作品ばかり載ってるんでしょう、みたいな偏見を抱いていたのだけど、TOCを見る限りそんなこともない感じ。もちろん題材上の偏りはあるのだけど、一つの試みとして続いてほしいと思う。

それにしても、これらの収録作をあわせると重複を除いても優に100編は越えてしまうわけで、傑作という言葉自体がなんだかゲシュタルト崩壊しそうな感じではある。

追記(2015/6/25)

まだこんなのがあった。

The Year's Top Ten Tales of Science Fiction 7 (English Edition)

The Year's Top Ten Tales of Science Fiction 7 (English Edition)

  • 作者: Nina Allan,Elizabeth Bear,Michael Swanwick,Peter Watts,Ellen Klages,Gareth Powell,Robert Reed,Alastair Reynolds,Tom Crosshill
  • 出版社/メーカー: AudioText
  • 発売日: 2015/06/14
  • メディア: Kindle
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これは元々オーディオブックのために編まれた年間傑作選が電子書籍でも入手できるようになったもので、そのせいか収録作は少なめ。今年はまだ出ていないようだが、同じ編者によるThe Year's Top Short Novelsというノヴェラの傑作選もあるそうだ。

*1:昔ホートンがスペオペの年間傑作選を予定していたのだけど、結局出なかった。

*2:なお、ここでスペースオペラといっているのは「スカイラーク」とか「レンズマン」とかではなく、ハードSFなどのサブテーマを持たない宇宙SF一般を指している。最近はそのような用法の方が一般的で、逆に30〜40年代のSFノリを指すときは"Pulp Adventure"など別の言い方をすると思う。

風雲ヒューゴ—賞2015

作品の中身より受賞歴が前面に出てくるのがイヤなので、普段あまり賞関連の話はしないのだけど、今年のヒューゴー賞についてはやはり触れておかないといけないと思い、遅まきながら概要をまとめてみた。こんなに真面目にヒューゴー賞の情報を追ったのは初めてかもしれない。

何が起こったか

今年のヒューゴ—賞の候補作投票で「サッド・パピーズ」「ラビッド・パピーズ」と称する2つの集団による組織票が多数の部門にわたって行われ、大部分が実際にノミネートされた。

小説4部門に限ってみても、長篇部門では5作中2作*1、ノヴェラ部門で5作中5作、ノヴェレット部門で5作中4作、ショートストーリー部門で5作中5作*2と両パピーズの推薦作が多く含まれている。

その他にも、映像部門、編集者部門、ファンジン部門……と影響は多岐にわたる。組織票の対象となった作品の一覧はこのサイトでまとめられている。

経緯

今回の組織票の首謀者は「サッド・パピーズ」を主導したラリー・コレイアとブラッド・トージャーセン、そして「ラビッド・パピーズ」を主導したヴォックス・デイ(セオドア・ビール)の3人と目されている。

2013年、コレイアは自分のブログで自作が毎年ヒューゴー賞に選ばれないことを切々と訴え、自作への投票を呼びかけた。「サッド・パピーズ」のコンセプトはこの時、サラ・マクラクランが出演する動物愛護のCMに出てくる悲しげな瞳の子犬を引き合いに出したことから生まれたと思われる。最近では作家がヒューゴー賞のノミネーション前に今年上梓した作品をブログに挙げるのは恒例行事と化しているため、この時点では特に不自然なことではなく、ある種の自虐ギャグだったといえる。

しかし明くる2014年、コレイアは「サッド・パピーズ2」と称したキャンペーンを開始する。ワールドコンの予備登録の段階から入念に呼びかけを行い、具体的な推薦作のリストを提示した。この時、デイも自分のブログで協力している。デイは前年、アフリカ系女性作家N・K・ジェミシンへの差別発言で非難を受け、アメリカSFファンタジー作家協会から除名されている

このキャンペーンの結果、コレイアたちは小説4部門中3部門を含むいくつかの部門に推薦作を送り込むことに見事成功する。私も当時長篇部門に入っているコレイアのWarboundを見て、ベイン・ブックス刊行の、それもシリーズものの途中巻が入ってることを不思議に思った覚えがある。この件は大きな議論を呼び、結局本投票では「パピーズ」の推薦作が受賞することはなかった。

そして2015年、コレイアは再び「サッド・パピーズ3」キャンペーンを展開し、一方デイは「ラビッド・パピーズ」という別のキャンペーンを打ち出した。後者の推薦作は前者と被っているものの、デイが編集を務める出版社やアンソロジーからの作品が多々追加されている。

反応

4月4日のノミネーション結果公表以来、この組織票に対する批判の声が挙がっている。例えばジョン・スコルジーは適切な候補がいなければ「受賞作なし」の選択もあると示唆している*3し、G・R・R・マーティンはコレイアとブログで激論を交わした。各種マスメディアでも発表直後から取り上げられている。(一例としてGurdianSalonAtlanticSlateなど)。

こうした注目が集まる背景には、単純に組織票による利益誘導を行ったというだけでなく、露骨な政治的文脈を持ち込んだことがあるだろう。元より差別的思想の持ち主であるデイもさることながら、コレイアやトージャーセンたちも自分たちの陣営を女性やマイノリティ作家に対置させている。彼らに言わせればここ10年間のヒューゴー賞が次第に文芸寄りになったのはSJW(=Social Justice Warrior ポリティカル・コレクトネスを尊重する人々に対する蔑称)が女性やマイノリティ作品を優遇したせいであり、それを本来の優れたエンターテイメントSFを評価するヒューゴー賞に反している、だから自分たちがそれを是正するのだ……という理屈らしい。

スコルジーはこうした一連の反動的な運動を、近年大きな議論を呼んでいる「ゲーマーゲート」的現象と捉えているという*4

今後の動向

ノミネーション発表後、最終投票への参加権を持つ登録者は5月時点で3000人近く増加した。これらの票が「受賞作なし」やパピーズによる候補作以外に集中すれば受賞を阻止することは可能だというが、その3000人がヒューゴー賞の危機に立ち上がった心あるSFファンなのか、パピーズの増援なのかはなんとも分からない。ヒューゴー賞最終投票の発表は8月22日。*5

一方、2年続けて組織票を許した以上、もうヒューゴー賞自体がダメだと言う声もある。しかしそこで投票システムの方をより公正を目指して改良しようと提案するのが、暗号学の泰斗にして近年政治への積極的なコミットで知られるブルース・シュナイアーだ。シュナイアーはトーの編集者ニールセン・ヘイデンのブログを借りてこうした投票システムのアイデア募り、その後その中で暫定案がまとめられたりしている。まだほんの構想の域を出ていないものの、自分たちの賞を自分たちで立て直そうとするSFファンの気概を感じさせる。

*1:当初は3作だったが、そのうちマルコ・クロウスが辞退し、繰り上がりで劉慈欣がノミネートされた。そんな男気あるクロウスの邦訳『宇宙兵志願』はハヤカワ文庫SFで絶賛発売中

*2:これも当初ノミネートされたアニー・ベレットが辞退したが、繰り上がったスティーヴン・ダイアモンドも組織票の対象作だった。

*3:それでいてパピーズ関連の賞をすべて落とすというような対抗キャンペーンには反対しているところも、スコルジーらしいバランス感覚といえる。

*4:「ゲーマーゲート」はゲーム業界における差別や偏見に基づく中傷や脅迫が顕在化したもので、最近ではSWATを気に入らない批評家の元に送りつけるまでにエスカレートしている

*5:会場となるワシントン州スポーカンとの時差は16時間なので、日本では23日と思われる。