ゲームSFに関するメモ
先日、最近の海外SFで「ガンダムビルドファイターズ」のような作品はあるか、と聞かれて考え込んでしまった。ビルドファイターズ――もう放送終了してしまったけど私も好きだった――の肝は、VRみたいな未来的なシステムを使ってガンプラ作り、そしてガンプラバトルの楽しさと喜びを描いたことだろう。そうしたゲームに没頭する快楽を描いた作品というのがぱっと思い浮かばなかったのだった。*1
私の観測範囲はもっぱらジャンルSFなので、ゲームを主題として扱うとしても世界設定との絡みが物語の中心となりがちだ。ゲームへの没入感・一体感は文章表現の問題なので部分的には描かれていることもあるが、ゲームに熱中すること自体を物語の軸として持ってくることは難しいのかもしれない。逆に、もっとポップカルチャー寄りの領域に属する小説なら、もっとゲーマーの心理に寄り添った小説があるのかもしれない。
さて、世界設定の絡みで英米ゲームSFをざっくり分類してみると、3つほどパターンがあるように思える。なおここで扱うゲームSFは主にここ10年くらいの作品で、デジタルゲームを扱ったものに限る。
1番目はゲームが世界とほぼ一体化したパターン。ゲームが社会システムを凌駕していたり、その一部と化していたりして、単なるゲームではなくなっている一種のディストピア的状況だ。『ハンガー・ゲーム』以降ヤングアダルトの一派閥として定着したバトルロイヤル小説などにも通じるものがある。
このパターンの代表作といえば、アーネスト・クラインのReady Player One(2010)だが、今月『ゲームウォーズ』の邦題で翻訳が出るんだそうな。
- 作者: アーネスト・クライン,toi8,池田真紀子
- 出版社/メーカー: SBクリエイティブ
- 発売日: 2014/05/19
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これはまさに世界中の人々が巨大なVRMMOに没頭している世界で、主人公の青年がゲームの創始者が生み出した宝を探しに行く話。非常に人気の高い小説だそうなのだけど、ゲームの話というよりは小説にやたらめったら織り込まれた80年代サブカルチャーネタが受けたとか。
同じパターンでもっと前に出たのが、コナー・コスティックのEpic(2004)。
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このヤングアダルトSFは生活カツカツの植民星を舞台に対戦ゲームの勝敗で社会的待遇が決められてしまうという設定で、主人公の少年がゲームを勝ち進んでいくという話。ちょっと面白いのが主人公がゲーム内で使うアバターが可愛い女性キャラというところ。少し読み返してみたら、生活がかかっているのでみんな戦闘系パラメータに振っているところで、魅力にガン振りしたら可愛くなったという設定上のフォローが入っていた。著者のコスティックは本業は歴史学者だが、世界初のライブRPG(って何?)をデザインしたとか。
ダイアン・デュエインのOmnitopia(2010)も世界規模のMMOを扱った話だが、これは開発した企業とライバル企業との暗闘という、開発者側の視点に立った作品。
- 作者: Diane Duane
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デュエインは創元でファンタジイなどが翻訳されている作家だが、SFもいけるらしい。ちなみに本作はシリーズものなのだが、次巻がいっこうに出る気配がないという。
2番目のパターンは『エンダーのゲーム』型というか、単なるゲームだと思っていたら現実(の戦い)と関連していて、意図しない結果を招いたり、より大きな出来事に巻き込まれてしまうというパターン。
先に挙げたアーネスト・クラインの今年刊行予定の第2長編Armada(2014)はこちらのパターンで、夢見がちな少年が実は自分の没頭していたゲームが異星人と戦うための技術を磨くものだったと明かされ、本当の戦いに赴く。この紹介記事では、スペースインベーダー風の表紙に加え、映画「スター・ファイター」が比較対象に挙げられている。
T・L・コスタのPlaying Tyler(2013)はもう少しシリアスな方面を目指していて、ADHDに悩まされ家族からも見放された少年が、唯一持ち合わせたゲームの腕前を頼みに空軍に志願するが、やがて自分のプレイしているゲームが無人戦闘機の操縦だったという事実が重くのしかかってくる。割と思いつきそうなネタではあるけれど、現代的な問題と結びつけたのは優れたセンスだと思う。
Playing Tyler (English Edition)
- 作者: T L Costa
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3番目のパターンは、ゲームと現実が経済や政治を通じてつながるテクノスリラー風の話のパターン。メジャーな作家がこのパターンで書くケースが多いので、近未来SFとしての特徴を打ち出しやすいのだろう。
チャールズ・ストロスのHalting State(2007)はゲーム内通貨の強盗から始まる一連の事件をスコットランド警察のサイバー犯罪対策課が追う物語。
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この小説、変わったことに二人称で書かれていて、あるレビューでそれが往年のテキスト型アドベンチャーゲームを模しているのではないかと指摘されていた。*2
コリイ・ドクトロウのFor the Win(2010)はゲーム内RMTを使った児童の強制労働・搾取(いわゆるゴールドファーミング)からの解放を扱った作品。出たのは少し前だが、ゲーム内通貨の裁定取引なども出てきて昨今のビットコイン騒動なんかともリンクしそう。
- 作者: Cory Doctorow
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ニール・スティーヴンスンのReamde(2011)はやはり大人気MMOのゴールドファーミングをめぐり中国人ハッカーやらランサムウェアやらが飛び交う話とか。
- 作者: Neal Stephenson
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スティーヴンスンはこの後、CLANGというゲームの自主制作に乗り出すのだけど、今調べたら2013年に頓挫してキックスターターの出資者をカンカンにさせていた……。先生何やってんすか、ホンマ。
この他やや変わり種として、ケン・マクラウドのRestoration Game(2010)というMMO内にかつて消滅した東欧の小国家を復活させるという政治方面のアプローチを取ったものもある。
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……とここまで無理矢理3パターンに分類してきたものの、なんだか思ってた以上に無理がある気がしてきた。
MMOを扱った作品に限定しても上記に属さない例として、ウルスラ・ポズナンスキのErebos(2012・英訳)がある。
- 作者: Ursula Poznanski,Judith Pattinson
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これはオーストリアのYA小説で、子供たちの間だけの秘密にされている強力な没入感をもたらすゲームがあり、それを他人にバラすとゲームの世界から追放されてしまう。この話ではゲームはより大きな世界と関わっていかない、逆に子供たちの聖域として扱われているのが独特。
また以前ブログで紹介したイーガンのZendegiなんかだと、MMOをプレイしている部分は作中作みたいに本編と別個の話のように扱われている。
結局ゲームSF1つとっても色々あるよね、という大変締まりのないオチ。